アメリカ西海岸の旅。 | photo and text by Eiko |
アメリカってどんなとこ。 なんとなく、どこか傲慢な大国。 みんなピストルやナイフを持ってる危険な場所。 合成着色料でできた食べ物と、 それを山のように食べる人のいるところ。 日本人のわたし。 敗戦国に生まれた私。 いつのまにか 「嫌い」なイメージを抱いている。 なんとなく入ってくる情報だけが、 私の知識であり、 それ以上何も知らない、 知ろうともしなかった自分に ちょっと驚いていた。 | |
アメリカに行ったら、何がしたい? どこに行きたい? 何を見たい? | 大きなハンバーガーを食べること。 ジャンクフードを買い込むこと。 なんにもない荒野にある一本の道を車でひた走ること。 |
ーそれだけ? そう、それだけ。 どうやら実現できそうな夢らしい。 |
辿り着いたのは サンフランシスコ 飛行機で約8時間 あたたかい。 12月だというのに花が咲き Tシャツ姿もめずらしくない | |
空港から南へいった海沿いの町、 モントレーへ向かった。 穏やかな雰囲気に 意外さを覚える。 | |
夕暮れの空。 カモメとオットセイを眺めながら、クラムチャウダー。 |
なんだか、…まんざらでもない。 |
「わたし、昨日はモーテルに泊まったの」 日本では、なんだかいかがわしい。 もともとは車旅行者用の宿泊施設 モーター+ホテル=モーテルというらしい。 ここには街道沿いにたくさんある、 ロングドライブのオアシス。 |
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1,安い 2,広い 3,意外に清潔 4,バスタブ有(しかも広) 5,お湯、ばんばん出る 7,タオル、使いたい放題 8,トイレットペーパー、使いたい放題 9,コーヒー&アメリカン・マフィン、サービス 10,朝食、サービス ‥‥‥ |
豊かな国、アメリカ。 (モーテル万歳!) |
地図を片手に明日の旅路を考える。 ‥‥‥やっぱり、まんざらでもない。 |
ヨセミテ国立公園へと向かう。 気分は「世界の車窓から」。 世界中の汽車の窓からの風景を流す5分間の番組。 大好きな番組。 |
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街を抜け、さびれた街へ入り、 また抜け、牧場が見えてきた。 牛がいる。 牧場地を走る。 また牛がいる。 どこまでも、その風景は続く。 どこまでも牛がいる。 家がぽつんとある。 またどこまでも牧場の丘は続いていく。 | |
しばらくすると、小さな町が現れる。 ガソリンと食料を仕入れる。 |
いつの間にか のどかな丘が山へ変わり 背の高い木々に囲まれる。 |
眼下には今さっき走ってきた 牧場の間の道がつづき、 夕暮れの空が きれいに染まっていくのが見えた。 |
Yosemite National Park ここが、ヨセミテ。 |
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目の前には 見たこともないほど巨大な岩壁があり、 目を疑う美しい形と模様と陰影を創り出す。 眼下には、 底の見えない谷間が広がり、吸い込まれるような深み。 見上げると 途方もなく大きな木がそびえ、 空のグラデーションにシルエットが映る。 | |
岩壁から滝が流れ、虹をつくる。 湖は凍り、落ち葉が封印されて時間を留める。 手のひらよりも大きな松ぼっくりが転がっている。 動物たちと出会う。 鹿は静かに見守られながら草をはむ。 |
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12月の冷たく澄んだ空気が顔を刺す。 ロッジに戻ると、暖かいクリスマスイルミネーション。 |
大きな自然の中に すっぽりと包まれて 月を眺めて ワインを飲んだ。 ここは、どこだろう。 |
しずかな時間の流れるヨセミテに 後髪ひかれる思いでハンドルを取る。 車窓は、再び広大な大地へと突入し風車の丘を越え、 大きな橋を渡るとサンフランシスコの街に入る。 |
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まずは、ツインピークスに住むA氏の家を訪ねる。 サンフランシスコが一望できる部屋はとても居心地がいい。 今回サンフランシスコへ来た目的は友人達に会うこと。 今夜はパリを中心に活躍するフォトグラファーLeon Saperstain氏の実家のクリスマスパーティーに招待されていた。 アメリカのホームパーティーに参加するのは初めて。 (アメリカも初めてなのだから当然である) 「カジュアル」スタイルのパーティー、とはいうものの… 私達は慣れないパーティーへ何を着ていくかと大はしゃぎ。 私は黒のロングドレスとからし色のショール。 A氏は赤いスーツに毛皮にハット。 K氏はジャケットとタイに着替える。 カボチャの馬車はA氏の愛車ポンティアック。 気分は映画の登場人物。 夕焼けのゴールデンゲートブリッジを渡る。 |
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蔦のはう大きな西洋館には、 クリスマスのイルミネーションが眩しかった。 中から暖かい光と笑い声。 ドアをあけるとシャンパンを手渡される。 私達3人のちょっとおかしな格好はその場に急に溶け込んだ。 戸惑いぎみの私達にLeonの母親Jeanineが声を掛けてくれた。 「ようこそ。よく来てくれたわ。レオンには会ったかしら?私はまだ会ってないのよ。そういえば、この会の招待状を見た?」 手渡してくれたINVITATION CARDには、私がいた。 (無論、Leonの作品としての「私」だが) その後は、Leonと再会を喜びあい、 沢山の人たちと挨拶をし、紹介され、会話をし、美味しい料理とお酒を片手に、すきな場所へ歩きまわり、笑い声と音楽とイルミネーションの光を楽しんだ。 夜風にあたろうと中庭へ出るとライトアップされたプールのほとりに誰かが置いていったワイングラス。 時計は夜中の12時を回り、 私達は一夜の夢から覚めるように家路へついた。 |
サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフ。 船に乗り、辿り着くのは海にうかぶ孤島。 アルカトラズ |
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見たことのある寒々しい風景。 映画の中にすっぽり入り込んでしまったように、 まったく同じ場所だった。 |
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ここは観光地として公開されているが、 『観光』というには、あまりにも暗く、リアルだった。 ここで行なわれていたであろう囚人への虐待、暴動、犯罪、生活の音が何もない灰色の壁の中から聞こえてくる。 自分が歩くたび、響く足音が看守の足音と重なってぞっとする。 観光客のささやきが、囚人のうめき声に聞こえてはっとする。 匂うはずのない排泄物の匂いや汗の匂いが、 この壁には染み付いて取れない。 |
面会の窓。 分厚い壁に阻まれた小さな窓。 |
遠く離れていく孤島を見て、ほっと息をついた |
どこまでも続く長い道を走っていた。 山を越え谷を越えたら まっすぐな道だった。 そうだ、これもアメリカでやってみたいことの一つだった。 ひたすらにまっすぐの広い道を車を飛ばして走る。 それはごく当たり前のように現実になっていた。 まっすぐの先が細く細く視力の限界で切れるまで、 伸びていた。 |
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お昼前にサンフランシスコを出発。 気持ちのいい1本道が終わるころには日が暮れはじめ、 ウェスタン映画に出てくるようなさみしい街に、カジノやスーパーが並ぶ。 きっと州が変わったのだな、と思った。 長いドライブの疲れと、この街の夜。 人気のないコンビニエンスストア 。 思わず銃を持った強盗を連想する。 …あまりにも似合いすぎ。 |
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このまま進みたい衝動を押さえ、忘れちゃいけないガソリンの補給と食料を買い込む。 21:00 宿に逃げ込む。 明日も長い道のりだ。 目を閉じても、 まだ頭の中に通り抜ける景色の映像が ぐるぐる回っていた。 |
人間、自分の目で見て体験しないかぎり なかなか信じられないものだ。 | 小学生の頃流行った、UFOの話。 幼馴染みの子は「見た」といい、 当時私も信じていたし、 今も、 きっと彼女には見えたんだろうと思っている。 でも、私自身は未知なる物体との遭遇をしないまま、成長した。 「UFO」という言葉すら長いこと消えていた。 |
早朝 まだ暗いうちにデスバレーへ向って車を走らせていた。 街を出ると真っ暗な闇の中。 視界は車のライトのあたる範囲だけ。 地図と標識だけを頼りに進む。 遠くの空の彼方に朝の訪れがほのかに感じられるようになり、自分がどんなところにいるのか、見えてきた。 地図どおり、ずっと山だった。 |
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地図上の細い血管のような道を 粒子のような私達が懸命に車を飛ばしている様を 別の自分が空の上から目で追っているような気になってきた。 私は、かなわない大きさに圧倒されていた。 この大地は果てしなく、 山々は幾千回もこの朝の訪れをくり返してきたのだろう。 ここには、想像をはるかに超えた大きな力が存在し、 UFOだってここには降りてくる。 薄闇の中で無限の宇宙を想像した。 | |
アメリカのほんの一部を見ただけで、 日本は比べようもない小さな島国なのだと知った。 その中でさえ、小さな自分。 「傲慢な大国」というアメリカの印象を思い出した。 それどころではない。 小さい粒を見せられた気がした。 驚いたが、 楽になったのも事実だった。 デスバレーに入った。 |